フロイト全集18より『17世紀のある悪魔神経症』
この論文でフロイトは、病歴に関する記憶のねつ造について扱い、さらには暗示が病を引き起こすことがありうるとも述べています。一般に、精神分析中に想起された幼児期記憶は、事実無根のでっちあげであることがあって、とくに被分析者が虐待体験を語る場合には諸外国では訴訟に発展したりといった問題も起こりうるわけですが、こうした事態について、その責をフロイトに帰せられることもあるように思います。しかしこの論文を読めば、そうした非難こそ事実無根であって、フロイトに関する先入見・ねつ造に由来するものだとさえいえそうです。
翻訳に関しては、次の箇所を問題としたいです。
「ポッテンブルンの司祭の紹介状では、単純かつ明確な事実だけが書き記されていた。ここでは、ハイツマンが九年前に血でしたためた契約書について言及されているだけである。この契約の日付[一六七七年]九月二十四日から、画家が契約書を書き渡したのは[九年前の]一六六八年九月二四日のことになるが、この逆算から確実に導き出される契約の年は、紹介状の中では明記されていない」(p216)
下線部の「契約の日付」という箇所は不正確で、一読した際にはここの事実関係がすぐに飲み込めません。ここは原文通り、「数日後に迫った約束期限の日付」としておけばさらりと読むことができます。なお、ここはp210に述べられている事実関係をもう一度述べている箇所ですので、そちらも参照すればよりはっきりするでしょう。
フロイト(著), 新宮一成(編さん)
出版社: 岩波書店 (2007/08)






こんにちは。わたしも、「十七世紀のある悪魔神経症」おもしろく読みました。この写本については、R・ハンター/I・マカルピン編「1677年の統合失調症」という本があって、そこには写本の完全な英訳と9枚の絵のカラー写真が掲載されているとのこと。私はこの本は手に入れていませんが、書評(http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?artid=1889079)から推測すると、編者はハイツマンを統合失調症と考えておりフロイトの分析にはかなり批判的なようです。たしかに悪魔にとりつかれるというのは妄想ととれますが、当時の世界観や僧侶たちが手厚くかかわってくれた状況を考えると、フロイトの考えたように詐病的な要素をもつヒステリーということでもいいかなと思いました。あらかじめ用意した契約書を僧侶たちの前で手品のように取り出すといったことは、疾病利得も意図した計画的な行動に見えますし。
投稿 重元 | 2008年1月13日 (日) 21時32分
こんにちは。
統合失調症を、幻覚・妄想などいわゆる陽性症状をもって診断する(あるいは主たる症状とみなす)ようになったのは、20世紀も半ばになってからだと思います。英独それぞれの一般的精神科医がいつごろからどのように考えるようになったかまでは知りませんが、有名どころではクルト・シュナイダーが1950年代に著した書物からの影響が大きいと思われます。
フロイトの時代には、統合失調症の診断においては、連合弛緩や、思考内容と情動の分裂などが診断上重視されるのが普通でした。一方で、そうした特徴を示さない場合、幻覚妄想がいかに著しくても、統合失調症とは呼ばれませんでした。
これは、精神病のうちどの範囲を統合失調症と呼ぶかという取り決めの問題であって、どちらが正しいかというような問題ではありません。(後年になってパラフレニーという疾患概念がほぼ使われなくなるなど、退化したといえる部分も大きいと思います)
なので、もしフロイトの統合失調症診断を批判している論者がいるとすれば、それは筋違いと思います。(シュレーバーの診断にはパラノイアをどう定義するかという難問が含まれますが)まあ、悪魔神経症者については、現代の普通の規準、ICD-10の診断基準でも統合失調症には入らないと思いますけどね。
投稿 freudien | 2008年1月15日 (火) 21時03分