« フロイト全集8から『機知』(3) | トップページ | フロイト全集8から『機知』(5) »

2008年7月19日 (土)

フロイト全集8から『機知』(4)

 今回取り上げる箇所は、これまでに取り上げてきたものよりはかなり小さな翻訳上の問題です。

『リップスにおいては、「機知的な列挙」(「配列」)の例の中に、ハイネの「学生、教授、俗物、家畜」に最も近いものとして、次の詩句が見いだされる。
「フォークを使い、骨も折って、母は彼をスープからつまみ出した」。リップスはこれを解説して、まるで骨折りがフォークと同じく道具であるかのようだ、と付け加えている。』(岩波版81頁)

 原文では、「Mit einer Gabel und mit Mueh' zog ihn die Mutter aus der Brueh'.」となっており、「フォーク」と「骨折り」の前に置かれる前置詞「Mit」が二つ並置されています。それに対して、訳文では「フォークを使い、骨も折って」とされているので、フロイトが述べる「機知的な列挙」という 印象を与えません。なかなか難しいですが、次のような訳を提案してみます。

『「フォークを使い、手間も使って、母は彼をスープからつまみ出した」。』(代案)

 「手間を使う」の箇所には、「色目を使う」「声色を使う」のように慣用句的な言い回しを持ってくることができれば、日本語でも機知として通用する訳文になるかもしれませんが、私には思いつけませんでした。

 なお、ここで「彼をスープからつまみ出す」という表現の意味がはっきりしません。リップスの詩句の前後の文脈がわかりませんが、ある男性がスープに浸かっているという状況はちょっとあり得ないのではないかという気がします。辞書で「Bruehe」には「スープ」以外にも「汚水」「苦境」などの意味がありますので、たとえば「泥沼から引き上げた」ぐらいの意味かもしれませんが、それでは「フォークを使い」の部分の意味が不明になります。なんとか元の文脈がわかると良いのですが。

フロイト全集 (8)

フロイト(著), 新宮一成(編さん)

出版社: 岩波書店 (2008/03)

« フロイト全集8から『機知』(3) | トップページ | フロイト全集8から『機知』(5) »

フロイト」カテゴリの記事

フロイト全集(岩波書店)」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。いつも拝見いたしております。
私も原文をときどき参照にしたりしながらこの本を読んだのですが、freudienさんのように誤訳を発見する程の独語力がないもので。ご指摘の機知は、邦訳で読んでも意味不明だったのですがこの記事でようやく理解できました。ありがとうございます。
この本全体としては、3人の翻訳者によって分担されているとのことで、訳語統一しているとはいうものの、やはり訳し方が少し違うと感じました。特に終盤のあたりで意味の分かりにくいところが多くて。翻訳のせいかどうかはわかりませんが、こちらの記事でのご指摘を楽しみにしております。

 コメントありがとうございます。
 たしかにこの論文は担当した訳者によって訳語もトーンも違っています。最後の部分は、明らかな誤訳はないものの、どうにも読みづらく、それはメタ心理学とくに力動論への理解がどうにも足りないからという気がします。はっきりした誤訳ではないのでわざわざブログに取り上げるほどでもないような気がしてたのですが、今回コメントをいただきましたので、目立った箇所については取り上げてみようと思います。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: フロイト全集8から『機知』(4):

« フロイト全集8から『機知』(3) | トップページ | フロイト全集8から『機知』(5) »

2021年12月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
無料ブログはココログ