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2008年11月14日 (金)

フロイト著作集2『夢判断』から、1851年の請求書の夢

 今回も『夢判断』から一つの夢を(フロイト著作集第二巻356頁)取り上げて、主に翻訳について検討します。これもまたフロイト自身の夢とされています。

 夢の本文の冒頭は、著作集では以下のように翻訳されています。

《私は一八五一年、ある発作のために生まれ故郷の病院に入院しなければならなかった。ところが故郷の市参事会からの入院料に関する一通の書状を受け取る。・・・》(以下略)

 この部分が私には話の流れがわかりづらく感じるので、私なりにここを改訳したうえで、夢の全文を紹介します。角括弧内は私なりの補足です。

《私は、一八五一年に、ある発作のために生まれ故郷の病院に入院[Unterbringung im Spital]しなければならなかった際の支払い[Zahlungskosten]に関する一通の書状を、故郷の市参事会から受け取る。私はそれを面白がる。なぜなら第一に、私は一八五一年にはまだ生まれていなかったし、第二にこのことに関係を持ちうる私の父親はもう死んでいたからだ。私は隣室の、ベッドに寝ている父のところへいって、そのことを父に話した。すると驚いたことに、父は[、父自身が]一八五一年に一度酔って、検束ないしは保護を受けたことのあったのを思い出した。それは父がT家のためにはたらいている時分のことだった。私は「ではお父さんもやはり酔っ払ったのですね。その後すぐに結婚なさったのですか」ときいた。私は計算してみると、なるほど一八五六年生まれだということになる。それが、その事件のすぐ後のことだったように思われる。》(フロイト著作集第二巻356頁)

 なお、この中で、『T家』(原文で『Haus T』)とは、王家・王室のようです。これが後の考察(『私は夢の中で自分の父を宮中顧問官にし大学教授にする』著作集358頁)に関連を持ちます。

 さて、フロイトによる考察によれば、この夢では、父親は別のある人物、『尊敬すべき一先輩』の代理となっています。

『夢の序論的部分は隠蔽されてはいるけれども明瞭に、この人が一時は父親がもはや果たすことのできなかった数々の義務(費用支弁、入院)を引き受けていたことを示している。』(著作集357頁)

 ここで、『費用支弁、入院』(Zaglungskosten, Unterbringung im Spitale)の部分は、同じ語が夢の本文に出てきているところが味噌ですから、同じ訳語を選んで『支払い、病院に入院』としたいところです。

 さらに父は、『かつて酒に酔って検束された』という部分でも、もうひとり別の人物の身代わりになっています。つまりそれはマイネルトのことであって、次のような出来事が背景にあったようです。

『この夢は私に彼が話してくれたことを思い出させる。それによると、彼は若いころ、クロロフォルムで自分を麻酔させる習慣に馴染んでしまって、そのために治療所通いをしなければならなかったという。』(著作集358頁)

 ここでの『自分を麻酔させる』(sich berauschen)という部分には、夢の本文で『酔っぱらって』とあった箇所(betrunken)とは別の語が用いられていますが、いずれも『酔う』という意味で共通しており、訳も『自ら酔う』ぐらいにしたいところです。また、『治療所通い』の箇所の原文は『Anstalt aufsuchen』となっており、診療所のほか刑務所など様々な公的施設に入ることを意味しうる表現となっています。すなわち、実際にマイネルトが病院に入ったという事実が、夢では改変されて、『検束された』ことになっているということのようです。ちなみに、これら二箇所には訳文では傍点が抜けていますが本来はフロイト自身によって強調された重要箇所です。

 今回はさらに以下の二箇所を単なる誤訳として訂正しておきます。ひとつめ。

『しかし私がこの夢のこの場面で、私の父にマイネルトの代理をつとめさせることができたのは、父とマイネルトとのあいだに類似点があるからではなくて、夢思想中にある一条件文章の、簡潔だがその意を十分に尽くしている表現があったからである。』(著作集358頁)

『しかし私がこの夢のこの場面で、私の父にマイネルトの代理をつとめさせることができたのは、父とマイネルトとのあいだに類似点があるからではなくて、夢思想中に、ある一条件文章が、簡潔だが十分に表現されているからである。(代案)』

 もうひとつ。

『私が今自分のもっとも信頼している患者の完全な治療を待たせている年月でもある。』(著作集358頁)

『私が今自分のもっとも熟知している患者の完全な治療を待たせている年月でもある。』(代案)

 この夢は368頁でも再び取り上げられていますが、その箇所についてはまた次回取り上げましょう。

フロイト著作集 第2巻 (2)

夢判断 下  新潮文庫 フ 7-2

フロイト (著), Sigmund Freud (原著), 高橋 義孝 (翻訳)  

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