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2009年1月

2009年1月29日 (木)

「思考伝播の存在を主治医がわかってくれない」

 最近余裕がなくて更新が滞っているので、とりあえず回診時のエピソードを紹介しましょう。

 ある統合失調症患者が、自分には思考伝播があって辛いのに主治医も看護師もわかってくれない、と訴えていました。

 この思考伝播というのは、英語ではbroadcasting of thoughtといいますが、自分の思考が「皆に知られてしまう」という体験のことで、「先生、私の考えは言わなくてもわかっているでしょう」と述べたりするとされています。統合失調症の特徴的な症状として、ブロイラーもシュナイダーも、「皆に知られてしまう」という体験、「先生もわかっているしょう?」という訴えについて述べています。

 このような定義に従えば、この患者には実は思考伝播はないと思われます。主治医にわかってもらえないということはあり得ないからです。

 ところで、「思考伝播」は、文献においてすら「思考察知」(誰かが自分の考えを読みとっているという体験)としばしば混同されているように思います。この患者は、以前このブログで紹介した病識についてのエピソードと同じ患者であって、統合失調症についての書物をよく読んでいるのですが、この患者が持っている書物でも混同されているのかもしれません。

 さて、一般に患者が心の中で幻聴と話し合うという体験をしている場合に、患者に対して「幻声の主はあなたの考えを知っていますか」と質問すれば、患者からの答えは普通イエスとなりますが、これをもって患者に思考伝播があるとしている文献も見受けられます。「対話性幻聴」という用語も、本来は「複数の声が(患者自身について)話し合っている」という体験のことですが、上記のように患者と幻聴との間で会話しているだけで「対話性幻聴」とされることもあります。「思考伝播」も「対話性幻聴」も古くから統合失調症に特異的な症状とされているので、用語法を間違えば、このような幻聴の例が簡単に統合失調症とされてしまいます。まあ、そのような軽症例がどんどん統合失調症と診断されるようになっていくと、「最近は統合失調症も治るようになった」「社会復帰も容易になった」などと主張できて、製薬会社その他いろんな人々が得をするんでしょうけども、われわれの共通言語を形成する症候学は大事にしていかなければならないと思います。

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