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2009年8月 2日 (日)

『翻訳語成立事情』岩波新書

 先頃、交通機関での移動中に柳父章著『翻訳語成立事情』(岩波新書)を読みました。

 幕末から明治期に翻訳語がいかにつくられ定着していったかを、10の基本語について解説しています。

 ひとつ目は「社会」ですが、「society」の訳語は幕末には非常に狭い範囲の人間関係(せいぜい「世間」といった範囲)を示す日本語に翻訳されていたこと、福沢諭吉が幕末には「人間交際」を用いたことなどが書かれており、明治に入ってから(諭吉も)「社会」という語をより広いものを指して用いるようになったことが紹介されています。

 私はかねがね、フロイトが「社会sozial」という語を使う場合、身近で顔の見える範囲の人間関係を指していると思ってきたので(父母との関係や、居酒屋に集まる仲間たちにこの語が用いられている)、フロイトを訳す際には社会という語が定訳とならなければよかったのにといまさらながら残念に思います。ゲゼルシャフトと区別できる良い訳語がないというのも問題です。この辺については以前ここで書きました。

http://freudien.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/post_e106.html

 「恋愛」の項では、江戸までは「色」「恋」しかなく、「love」に対応する語が存在しなかったが、「恋愛」という語とともに、この「高尚な」事柄が新たに出現したのだという。ここらへんを読んで思ったのは、我々はすでに「愛」の崇高化が済んでしまっているせいで、ラカンの宮廷愛論(対象の崇高化を論じている)がむしろわかりにくいのかもしれないということです。

 このほか、「美」や「彼、彼女」など、普段精神分析関係の原書を読みながら日常的に接しているいくつかの語について興味深い解説があって、なかなか深く楽しめる本でした。

柳父 章 (著)

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