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2010年2月 8日 (月)

フロイト全集11から『レオナルド・ダ・ヴィンチの幼年期の想い出』

 レオナルド・ダ・ヴィンチの幼年期の想い出を扱ったこの論文で、フロイトは、「ハゲワシ」のイメージがダヴィンチの素質形成において多面的・重層的なキーとなっていると論じているのですが、実はフロイトが依拠した独語訳で「ハゲワシ」とされている鳥はダヴィンチの書いたイタリア語原文で「トビ」であったことがわかっています。それでもこの論文の本質的な価値はさほど失われないと思うのですが、やはり私がこれを読むときには、どうしても取捨選択しながら話半分に読み飛ばしてしまうような読み方に陥りがちで、なかなか困ったものです。

 翻訳については、細かいところですがまず次の箇所が気になりました。

「 レオナルドにおいて知識慾がそうであるように、ひとりの人物の性格像の中にただひとつの欲動が過度に強く形成されているのが見いだされる場合、われわれはそれを説明するのに、何か特異な資質といったことを引き合いに出す。おそらくこの資質にも器質的な条件があると思われるが、それについて詳しいことは大概のところまだ何ひとつ分かっていない。しかしながら、神経症者についてのわれわれの精神分析的研究によって、そこから二つの予測が立てられるように思われ、今後それらが個々の事例で確証されていくのを待ちたい。われわれの見るところでは、そういった過度に強い欲動は本人の幼年期の最初期の段階からすでに活動していて、子供の生活の中の様々な印象によってその欲動の優位性が固定されていった。(…)
 人々の日々の生活を観察すると、大概の人は自分の様々の性的欲動力の実にかなりの部分を首尾よく自らの職業活動のほうへ誘導していることが分かる。性欲動はその特性からしてこういった貢献をするのにうってつけである。昇華の能力を備えている、つまり身近な目標を性的でない別の目標、ことによると性的なものよりも高い価値があるとされるような目標と交換することができるからだ。もしある人物の幼年期の歴史、すなわち心の発展の歴史において、過度に強い欲動が幼年期に性的関心に従属していたことが認められるなら、この過程の存在が証明されたものと考えられる。また、成年期になってその性生活が著しく萎縮し、あたかも性活動の一部が過度に強い欲動の活動によって代替されているかのような観を呈するなら、それによってあらためてこの過程の存在が裏付けられると見なしうる。
 以上のような予測を過度に強力な研究欲動に適用するのには、特別な困難が伴うかに見える。(…)」(岩波版23-24頁。下線は引用者)

 下線で強調した「過度に強い」という語は、原文でははじめの二つが「ueberstark」、あとは「uebermaechtig」という具合に言葉が使い分けられています。辞書的には、「ueberstark」は確かに「過度に強い」という意味になりますが、「uebermaechtig」の方は、辞書を引くと「優勢な、優位の」といった意味が出てきます。すなわち、上に引用した部分で、ひとつめの段落では欲動の強力さが話題にされていたのに対して、二段落目からは、他の欲動に比して優位な欲動が話題にされていると考えられます(結局同じことかもしれませんが)。ついでに言いますと、二段落目の最初の下線部から続く部分、「過度に強い欲動が幼年期に性的関心に従属していたことが認められるなら」で、従属していた云々は原文では「im Dienste...stehen」なので、辞書にある「…のために働いている」という語釈を使って、「優勢な欲動が幼年期に性的関心のために働いていたことが認められるなら」とした方が平易と思われます。単に、好奇心や視覚欲動が性に向かうことを指すでしょう。

 岩波版で28頁3行目の「過度に強力な」も「uebermaechtig」なので、「優勢な」が正しいと思います。

フロイト全集〈11〉1910‐11年―ダ・ヴィンチの想い出 症例「シュレーバー」

高田 珠樹 (翻訳), 甲田 純生 (翻訳), 新宮 一成 (翻訳), 渡辺 哲夫 (翻訳)

出版社: 岩波書店 (2009/12)

 これを読んで、自分が子供のころ恐竜や昆虫に興味を持っていたことを思い出し、生物としての自分の発生の問題に対する興味につながるのだから結局はフロイトの言う性探求をしていたのだなあと改めて思った次第です。

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