« クルト・シュナイダー『臨床精神病理学』 | トップページ | 1年有難うございました »

2010年12月23日 (木)

クルト・シュナイダー『臨床精神病理学』(2)

 少しずつ読んできたこの本も、本篇の終わりにさしかかってきました。この本の翻訳についてはストレスなく読み進められるので助かっていますが、原書を参照したくなった(数少ない)箇所の紹介を続けます。

『たしかに、全く奇妙な、筋違いで「狂った」印象を与える着想とその処理暈だけに基づいて統合失調性精神病を想定しなければならない例が存在する。こうした着想には自分自身に関するもの(心気、血統)、他の人に関するもの(追跡、冷遇、嫉妬)、事物に関するもの(発明)がある。こうした例は頻度が高くなく、たいていは単なる異常パーソナリティ発展ではないかという疑問が生じる。我々やヤンツァリックのように、そうした例の中に統合失調症性精神病の1類型しか認めないとしても、コレ(Kolle)にならって誤解のないよう「パラフレニー」と呼ぶこともできるし、ガウプ(Gaupp)にならって「パラノイア」と呼ぶこともできる。命名が重要なのではなく、精神病性の事象と精神病質性ないし体験反応性の発展の区別だけが肝要である。』(針間訳版p94-95、下線は引用者)

 下線の部分ですが、何が何に包含されるのかが今ひとつ曖昧です。原文では「in et3 et4 sehen」の表現ですので、簡単に辞書通り「et4をet3とみなす」と訳したほうが意味が明瞭と思います。すなわち、下線部は「そうした例を統合失調症性精神病の1類型としかみなさないとしても」となります。

 この引用文を読むと、シュナイダーはパラノイアを統合失調症の1タイプとしかみておらず本質的な違いはないと考えているようです。ところが、シュナイダーが統合失調症にかなり特異的として列挙した症状(シュナイダーの言う「1級症状」)は、国際診断基準ICD-10では、統合失調症とそれ以外の妄想性障害(パラノイアを含む)とを鑑別するための指標とされていますし、日本の普通の精神科医の考え方もおおむねこれに近いように思います。しかし、もしシュナイダーの1級症状を援用するのであれば、あくまでシュナイダーに従うべきであり、妄想性障害というカテゴリーを残すことは許されないように思えます。

 上の引用よりも少し前の箇所では、たんなる妄想的解釈と思われる例が妄想知覚(1級症状のひとつ)として紹介されていて、シュナイダーの統合失調症の範囲はかなり広いようです。

 最後にもう一箇所引用しておきます。ここは、カギ括弧内に私が補っておいたいくつかの言葉がないと、ちょっと分かりにくい気がしました。

『循環病性の自己陳述は、はるかにより高い正当性をもって言葉通りに受け取ってよい。循環病性うつ病患者の思考構造と少なくとも内容は、比較にならないほどより非精神病性の生活に近い。このことは、臨床的にここで移行を認めなくても当てはまる。そのため、統合失調症性の自己陳述に特有の置き換えは、臨床的に明らかな[循環病の]例では[存在せず、]問題にならない。ここで[われわれが“置き換え”と言うことで]意味しているのは、厳密に上に述べた意味での[統合失調症性の]置き換えであり、体験されるそれぞれのことから語られることへの、構造に関わらない日常的な変形ではない。』(針間訳版p94-95、下線は引用者)

 この本はまだ補遺と解説が残っていますので、来る年もクルト・シュナイダーを読み続けることになります。

新版 臨床精神病理学 
クルト・シュナイダー、ゲルト・フーバー、ギセラ・グロス、 針間 博彦 (単行本 - 2007/9)
出版社: 文光堂 (2007/09)

« クルト・シュナイダー『臨床精神病理学』 | トップページ | 1年有難うございました »

精神病理学」カテゴリの記事

シュナイダー」カテゴリの記事

コメント

ご無沙汰しております.
ご存じかと思いますが,Huber&Grossの「Wahn」では,パラノイアの妄想も分裂病と同じで,最終的には了解不能な「核」に行き当たるという記述がありましたよね.先生の引用されたSchneiderの箇所を拝見して,Jaspersのいう意味でのelementarな心的過程の発露を重視する見解と近いように感じました.

コメント有難うございます。
 ご指摘のHuber&Grossの「Wahn」を私は存じませんので、いずれ読みたい本がまた増えてしまいました。
 妄想知覚は解釈妄想と区別しがたい場合があるのは確かなので、私は、妄想知覚を統合失調症診断の決め手として用いる際には「野良犬の仕草をみて神の啓示と気づく」ぐらいの、知覚と意味の了解不能な乖離が必要という気がしています。
 まあ統合失調症と名づけようとパラノイアと名づけようと患者を適切に扱うことこそが大事なわけではありますが、鑑定などの場合には病名が一人歩きしてしまうので困ったものです。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: クルト・シュナイダー『臨床精神病理学』(2):

« クルト・シュナイダー『臨床精神病理学』 | トップページ | 1年有難うございました »

2021年12月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
無料ブログはココログ