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2011年1月22日 (土)

テレンバッハの「メランコリー親和型性格」について(2)

 うつ病の病前性格として、几帳面、良心的などの特徴を取り出して「メランコリー親和型性格」と名付けたのはドイツの精神科医、テレンバッハです。この性格がかつて日本に紹介された時は、日本の堅実で評判の良い中年サラリーマンの軽症うつ病に多いといわれてきましたが、テレンバッハの著書『メランコリー』で挙げられている個々の症例は、病前からかなり独りよがりで変な人物が目につき、企業の主力として働けそうな人物はほとんどいないことを以前ここに書き込みました。

  http://freudien.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-2737.html

 この『メランコリー』をあらためて読んでみて、もう一つ気になる点は、テレンバッハが病前性格を検討するために選んだ症例群は、抑うつ状態の患者の中でも、テレンバッハの病院に入院してきた入院例だということです。テレンバッハが臨床例を集めた時期は、治療法としてまだ抗うつ薬がない時代から、最初の抗うつ薬の発売の直後あたりまでですから、有効な治療法は電気ショックぐらいですし、世間的にも精神病院の敷居は現在より遙かに高かったでしょうから、かなり重症化した患者しか入院してこなかったと想像されます。私自身、そういった事情を知った上でこの本を読み進めていたのですが、以下の症例記述には驚きました。

〈症例25〉36歳の女性患者、マリアンネ・Kが最初に入院したのは1956年であった。1948年の最初の出産以来、彼女には毎年の春と秋に《調子の悪い時期》があり、気分がすぐれず、食欲がなく、眠れず、少しも楽しくなかった。最初の変調が現れたのは、出産の直後に頭がひどくぼんやりしたときからだった。彼女は何をする元気もなくなり、働く意欲を失い、わけもなく泣いてばかりいた。何もかもが重荷となり、自分はすっかり変わってしまったと感じた。この状態は数週間で治ったが、それ以来毎年二回繰り返されるようになった。
 初回入院時の気分変調は、突然《青天の霹靂のように》始まったもので、それまでの調子の悪い時期よりも重かった。(略)
 調子の悪い状態を持つようになったのは、1948年に子供を産んでからのことだという。それ以来、そういった状態はいつも春と秋との始まりに訪れていた。そして、1956年に最初にはっきりしたメランコリーが始まったのである。(略)

 この第一段落に描かれている病像は、現在の我々の基準から言えば、軽症どころか中等症といってよい明瞭なうつ病の状態です。ところがテレンバッハはこの症例の1948年から1955年までの状態をメランコリーとは呼ばないようなのです。つまりこれぐらいまでの症状を呈したのち改善していく症例は考察対象から除かれていたわけで、上の症例25も、1956年以降にさらに重症化しなかったならば当然考察対象とはなりませんでした。(なお、他の症例の記述を見ると、病気の期間が数週間でもメランコリーと呼ばれていたりしますので、上の例も、期間が短いのではなく、重症度がメランコリーに達していなかったと思われます)。

H. テレンバッハ(著), 木村 敏 (翻訳)

出版社: みすず書房; 改訂増補版 (1985/12/5)

 テレンバッハがメランコリー親和型性格から発症に至るメカニズムについて述べた理論は、かつて、日本で軽症うつ病者の病前性格にもそのまま援用されていたのですが、やはりそれは根本的に間違いだったのではないか、単に日本人の一般人口に多かった性格だったにすぎず、軽症うつ病発症と性格とには密接な関連はなかったのではないか、というここ最近の私の疑問が、症例の重症度のあまりの違いからも、またもや強くなるばかりです。

軽症うつ病 (講談社現代新書)

笠原 嘉 (著)

  • 出版社: 講談社 (1996/2/20)
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