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2011年7月12日 (火)

テレンバッハ『メランコリー』(2)

 この本の症例をまた取り上げてみます。。

<症例2> 女性患者イルゼ・Stがいうには、彼女は思い出しうるかぎりの幼いころから特別に几帳面であった。正確さから外れることがあったりすると、不安になり、気がすまない感じをもった。・・・(略)
 学校を終えたのち、患者は事務職員になる訓練を受けた。この職業は、とりわけ精密な仕事ができるということで、彼女の気に入った。彼女は結婚後、この職業と家事との両方を同じような正確癖で行っていた。当座は両方のつとめをちゃんとこなしていたが、重い病気にかかった母親の看病を背負いこんで以来、事務所の方はやめてしまった。一九五七年の一〇月に母親が亡くなった。患者は一九五八年の二月に妊娠したが、気分はよく、仕事を切りつめる必要はほとんどなかった。彼女は子供をとても楽しみにしていた。
 妊娠四か月のとき、はじめて強迫症状が現れた。彼女は、それまでよりも頻繁に衣類だんすを整理するようになった。入れてあるものがすべてきちんとなっていることをよく知っているくせに、それをひとつ残らず特別正確な位置に揃えようとした。彼女はとうとう衣類だんすにすっかり取りつかれてしまって、別の仕事を始めてもたんすのことが頭から離れなくなった。この整理癖は、ときとともにその他の仕事、たとえば掃除、洗濯、炊事などのことにまで拡がった。一人でいるときには、この症状はいっそうはっきりと現れた。一九五八年九月には、それ以外にもいくつかの症状が加わった。まず始まったのは睡眠障害で、寝つきはよかったが早朝の四時以後はどうしても眠れなかった。それ以来、強迫衝動は格別に強く出現するようになった。彼女は次第に毎朝おっくうな気持に取りつかれるようになり、とうとう仕事がほとんど手につかなくなってしまった。・・・以下略(邦訳152頁)

 下線部は「Sie musste sich vermehrt am Kleiderschrank zu schaffen machen」ですが、この「sich zu schaffen machen」は、辞書によれば

「sich zu schaffen machen (必要もないのに)何かごそごそやって(いじくりまわして)いる、何やら忙しそうにする /Was machst du dir an meinem Schreibtisch zu schaffen? 私の机のところで何をごそごそやっているんだ」

だそうです。下線部の邦訳は助動詞「muessen」のニュアンスも訳し落としていますからそこら辺も補うと、「彼女は、衣類だんすをより一層ごそごそいじくり回さなければならなかった」という感じでしょう。

 さて、この患者は、幼少期から几帳面で、正確さから外れると自らが苦しむほどであったようでして、発症前から軽度の症状をもっていたというべきです。少なくともこの患者の病前のあり方は、ごく普通の人の範囲には入らないように思います。(この患者は、幼少期から几帳面さが目立ち始めていることや、義理を欠いたり借りを作ることではなく正確さから外れることに敏感であることからみて、メランコリー親和型性格というよりむしろ発達障害に近い人物ではないかという気もします)

 もうひとつ、この患者は、妊娠後にまず強迫のみを症状として発症しますが、テレンバッハ『メランコリー』で取り上げられる症例は、こういう、単なる気分・意欲・活動性などの落ち込みにとどまらない症状を伴っていることが多いということも指摘しておきましょう。

メランコリー [改訂増補版]

H. テレンバッハ(著), 木村 敏 (翻訳)

出版社: みすず書房; 改訂増補版 (1985/12/5)

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