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2011年11月15日 (火)

ヤスパース『原論』の再読(第二章第二~三節)

 ヤスパース『精神病理学原論』について翻訳の疑問点の続きを取り上げていきましょう。

こういう発作の非常に強度のものである癲癇ようの痙攣発作は、稀に感情激動の後、あるいは精神衰弱や精神病質にひとりでに、特発的に起こることがある。(みすず版邦訳165頁、下線は引用者)

こういう発作の非常に強度のものである癲癇ようの痙攣発作は、稀に情緒的激動の後、あるいは精神衰弱や精神病質に自発的に起こることがある。(代案、下線は変更箇所)

 ここで「自発的」としたのは「spontan」です。なお、これについては前回も取り上げましたので参照してください。

 次です。

ぼやぼやしている痴呆患者のいつもまったく空虚な無表情の顔(みすず版邦訳171頁、下線は引用者)

ぼやぼやしている早発性痴呆患者のいつもまったく空虚な無表情の顔(代案、下線は変更箇所)

 ここは「Demenz」ではなく「Verbloedet」なので、認知症の老人患者のことではなく統合失調症による解体患者のことですから、区別するには「痴性化患者」とでもするか、あるいは次に挙げる箇所にならって、「Verbloedung」「Verbloedet」を「早発性痴呆」「早発性痴呆者」と訳すことに決めてしまうのが良いと思います。

さらに早発性痴呆の特徴的な筆跡として、筆跡はきちんとしているのに同じ文句や文字の反覆があり、衒奇的情動的にひどく模様化して飾り立てるものがある。どの器質的痴呆状態でも筆跡はついに全く形のないなぐり書きとなって崩れてしまう。(みすず版邦訳171頁、下線は引用者)

さらに早発性痴呆過程の特徴的な筆跡として、筆跡はきちんとしているのに同じ文句や文字の反覆があり、衒奇的情動的にひどく模様化して飾り立てるものがある。どの器質的認知症状態でも筆跡はついに全く形のないなぐり書きとなって崩れてしまう。(代案、下線は変更箇所)

 私の代案では「Demenz」を「認知症」として違いを強調してみました。

 次の短い引用は、本文ではなく小見出しです。

五 行動と生活態度 (みすず版邦訳175頁)

 この小見出しは原文では「Benehmen, Handlungen, Lebensfuehrung」と三語になっています。みすず版でははじめの二つを「行動」という同じ語でまとめてしまっており、この後の本文でも区別していません。じつは本文の第二段落とその註で「行動」と訳されているのは「Benehmen」、それよりも後の訳文で「行動」と訳されているのはほとんどが「Handung」というふうに使い分けられています。それらを読む限り、意味的にも区別すべきといえそうで、前者の「Benehmen」の訳としては「立居振舞」とか「挙措」という感じがいいんじゃないかと思います。

五 立居振舞、行動と生活態度 (代案)

 このあと2段落目とその註の「行動」は「立居振舞」(または「挙措」)と読み替えてください。そのあとに出てくる「行動」という語のなかにも、読みかえるべき箇所はぽつぽつとありますが、きりがないので割愛します。

 次はまたしても「痴呆」という訳語についてですので、代案もまとめて紹介しましょう。

また痴呆患者は社会的に適応できず、浮浪者になる運命になり、鬱病患者は不安のため目的もなく徘徊し、遁走の状態では特にこういうことが著しい。
 自殺は不安とか、鬱病患者の厭世や絶望とか、痴呆に導く病的過程の突然の衝動などによる。(みすず版邦訳177頁、下線は引用者)

また早発性痴呆者は社会的に適応できず、浮浪者になる運命になり、メランコリー者は不安のため目的もなく徘徊し、遁走の状態では特にこういうことが著しい。
 自殺は不安とか、メランコリー者の厭世や絶望とか、早発性痴呆に導く病的過程の突然の衝動などによる。(代案、下線は変更箇所)

 今回は次が最後です。

いろいろ細かいこと全部の結果をみると、外面的にみれば、あらゆる精神的な病気の結果は現実からの遮断であり、適応不足であり、非社会的な社会的態度である。(みすず版邦訳178頁、下線は引用者)

いろいろ細かいこと全部の結果をみると、外面的にみれば、あらゆる精神的な病気の結果は現実からの遮断であり、適応不足であり、非社会的あるいは反社会的な態度である。(代案、下線は変更箇所)

 非社会的と反社会的という区別は、たとえばみすず版邦訳の372頁にもあります。

精神病理学原論 
カール ヤスパース (著), Karl Jaspers (原著), 西丸 四方 (翻訳)
みすず書房; 限定復刻版 (1971/01)

Allgemeine Psychopathologie Ein Leitfaden Fur Studierende, Arzte Und Psychologen (1913) Karl Jaspers (ペーパーバック - 2009/11)

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