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2014年2月25日 (火)

ブランケンブルク『自明性の喪失』その9・邦訳74頁~

 アンネの面接記録部分の翻訳の検討の続き、今回は74頁からです。

 まず、本訳書で「わかる」という言葉は、アンネの訴えのキーワードである『wissen』か『verstehen』に対応して用いられていて、たとえば邦訳117頁から118頁では原著者もこれら二つの語を取り上げて詳論しています。今回の箇所では基本的に『wissen』という原語(「知っている」と訳すほうがよいと思いますが)の訳語として使われていますが、次の箇所だけは違う語(erkennen)に対応しているので指摘しておきます。

でも私にはそのルールがまだはっきりわからないのです。(74頁)

でも私にはそのルールがまだはっきり認識できないのです。(代案)

 次は訳し落としです。『sittlich』はヘーゲル哲学なら「人倫」と訳されますがここでは避けました。

お母さんがきびしくて、そして私を大事にしてくれたから。(75頁)

お母さんが道義的にきびしくて、そして私を大事にしてくれたから。(代案)

 次の箇所ですが、アンネは自分に何が欠けているか、『名付けるbenennen』こと、『名指すnennen』ことができないと、何度も繰り返し語っているので、そこは直訳にしました。『居合わせるdabei seinことができない』というのもアンネが何度も繰り返し語る表現で、前回も扱いました。『感情的なもの』は、邦訳74頁5行目『感情の自明さ』を指しています。

なにかが抜けているんです。でも、それが何かということをいえないんです。何が足りないのか、それの名前がわかりません。いえないんだけど、感じるんです。わからない、どういったらいいのか -悲しい、卑屈な気持ち…。一度だってちゃんとしてついていけたことがありません。わからないけど、どういっても同じことです。どういえばよいのでしょう…簡単なことなのです…わからないけど、わかるとかいうことではないんです、実際そうなんですから…どんな子供でもわかることなんです。ふつうならあたりまえのこととして身につけていること、それを私はどうしてもちゃんということができません。ただ感じるんです…わからないけど…感じのようなもの…わかりません。(75頁)

なにかが抜けているんです。でも、それが何かということを名付けられないんです。何が足りないのか、それの名前で名指せません名付けられないんだけど、そう感じるんです。わからない、どう言ったらいいのか -悲しい、卑屈な気持ち…。一度だってちゃんと居合わせて参加したことがありません。わからないけど、いつも同じです。どういえばよいのでしょう…簡単なことなのです…わからないけど、知識とかいうことではないんです、実際そうなんですから…どんな子供でもわかることなんです。ふつうならあたりまえに身につけていること、それを私はどうしてもちゃんと名付けることができません。ただ感じるんです…わからないけど…感情的なもの…わかりません。(代案)

 次に移ります。アンネは家庭が必要なのだと繰り返し訴えていて、邦訳61頁の『Zuhause住まい』の箇所について当ブログでもすでに取り上げました。

家庭がなければ、そして指導が…両親の指導がなければだめなんです。親がちゃんとやってみせて、いろんなことにぶつかって、自分で正しい道を見つけて、理解できるようになって …私はそれをしませんでした。なにもかもいいかげんだったのです。理解するということも。(75頁)

住まいがなければ、そして指導が…両親の指導がなければだめなんです。親がちゃんとやってみせて、いろんなことにぶつかって、自分で正しい道を見つけて、しかも理性的にも …私はそれをしませんでしたし、それは私には全く生じなかったのです、理性的にも。(代案)

 この箇所からするに、アンネが自分に欠けていると考えている「自然な自明性」は、両親から学ぶべきものであって生得的なものではないことになります。これもあらためて考えてみると面白い点ではないでしょうか。

自明性の喪失―分裂病の現象学 W.ブランケンブルク、木村 敏、岡本 進、 島 弘嗣  (1978/7/10)

Der Verlust der natuerlichen Selbstverstaendlichkeit Wolfgang Blankenburg  (2012/11)

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