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2014年6月 1日 (日)

ヤスパース『原論』の再読(第五章)

 当ブログでヤスパースの『原論』の翻訳を4章まで検討したところでずいぶん長く放ってありましたが、最近読んだ鈴木國文著『同時代の精神病理』で『人格』という概念が主題的に扱われているのをみて、ヤスパース『原論』の5章『知能と人格』という章を読み直しました。

 翻訳上の大きな問題は少ないように感じました。まずは誤植というかケアレスミスと思われる次の箇所。

区別の問題、たとえば誤りと嘘のちがい、信識と信仰の区別など(邦訳290頁)

区別の問題、たとえば誤りと嘘のちがい、知識と信仰の区別など(代案)

 次は、aktuellという語を「現実」「実際ある」と訳していますが、「現時点での」「当座の」「目下の」といった意味でしょう。ほかいくつか手を入れてみました。

了解的関連全体に対し、すなわち欲動や感情の動きや、反応や、行為や、目的や、理想に対して、われわれはいつも素質というものが加わっていると考え、この素質がこの現実の意識された精神過程に現われてくる。この素質も人格と呼ばれる。こういうものとしてわれわれは意識外のでき、素地を了解的関連全体に付け加えて考え、この人格素質は -これのいろいろの現れの関連は皆了解できるものであるが- その実際の存在全体としては了解できないもので、たとえば遺伝の法則などで説明されるのである。検査の方向いかんによって、人格の概念としてこの素質を強調することもあるし、実際ある了解的関連を強調することもある。(邦訳292~3頁)

了解的関連全体に対し、すなわち欲動や感情の動きや、反応や、行為や、目的や、理想に対して、われわれはいつも素質というものが加わっていると考え、この素質がこの目下の意識された精神過程に現われてくる[と考える]。この素質も人格と呼ばれる。こういうものとしてわれわれは意識外の素因を了解的関連全体に付け加えて考え、この人格素質は -これのいろいろの現れの関連は皆了解できるものであるが- その実際の存在全体としては了解できないもので、たとえば遺伝の法則などで説明されるのである。検査の方向いかんによって、人格の概念としてこの素質を強調することもあるし、目下了解的関連を強調することもある。(代案)

 上にも出てきましたが、この訳書には素因・素質といった意味を表すために「でき」というぼんやりした語が頻用され、ほか「素地」「持前」などの語も使われて、原語と一対一対応していないので非常にわかりにくく感じます。これまでも何度か取り上げてきましたが、全ての箇所を取りあげるのは煩雑ですし、とりあえず次の箇所を挙げておきます。

本当の性格、すなわち欲動と感情のできの体系の質の異常な変異は、人格の性質にとっては構造の変異よりもずっと深い関係がある。異常な構造という点でみるとわれわれに性質の似た性格であるが、質の点で見るとできのちがう人々の間には感情と欲動のできに非常に隔絶したちがいのあることがわかる。ある欲動のでき、たとえば性欲倒錯のある時に、全人格はその質が全然別であるとは限らない。けれどもある場合には異常な性的なできがあると、人格が妙に冷たく非性的で、ときにはひどく敏感で感情が繊細であるが世界全体を別の照明の下に見ているような同性愛者となり、この場合その性質のできに隔絶した変異がはじまっている。(299頁)

本来の性格、すなわち欲動と感情素質の体系の質の異常な変異は、人格の本性にとって、構造の変異よりもずっと重大であるあらゆる異常な構造形式のなかに、われわれと本性の似た性格がみつかるが、情緒素質や欲動素質の場合には、資質のちがう人々の間に、非常に隔絶したちがいがきわめて速く生じる。ある欲動素質、たとえば性欲倒錯の欲動方向がある時に、全人格にも本性的に(質的に)全然別の特徴がもたらされるとは限らない。けれども多くの場合には異常な性的素質があると、人格が妙に冷たく非性的であるとか、ときにはひどく敏感で感情が繊細であるが世界全体を別の照明の下に見ているような同性愛者となるとかいう点に、その本性の資質の重大な変異がはじまっている。(代案)

 はじめの文と最後の文の「重大」は同じ語ですので揃えました。

 今回の最後は短い箇所から。

年齢の各時期と関係なく、ひとりでに(内因性に)起こる出現期、位相として現れる人格の現れ方の変動がある。(306頁)

年齢の各時期と関係なく、自発的な(内因性の)出現期として現れる人格の現象形態の変動がある。(代案)

 

精神病理学原論 
カール ヤスパース (著), Karl Jaspers (原著), 西丸 四方 (翻訳)
みすず書房; 限定復刻版 (1971/01)

Allgemeine Psychopathologie Ein Leitfaden Fur Studierende, Arzte Und Psychologen (1913) Karl Jaspers (ペーパーバック - 2009/11)

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