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2014年6月 7日 (土)

ヤスパース『原論』の再読(第六章)

 翻訳の検討を続けます。この章には問題は少ないと思いました。

それはすなわち躁うつ病 -フランスの学者の循環精神病と感情疾患もこれに入る- と早発性痴呆 -カールバウムの緊張病と、破瓜病と狂気(フェルリュクトハイト)がこれに入る- とである。(邦訳312頁)

それはすなわち躁うつ病 -フランスの学者の循環精神病と感情疾患もこれに入る- と早発性痴呆 -カールバウムの緊張病と、破瓜病と偏執狂(フェルリュクトハイト)がこれに入る- とである。(代案)

 この『Verruecktheit』をはじめとする古い疾患概念をどう統一的に訳すかは非常に難しいところですが、ここは早発性痴呆(統合失調症)の下位分類ですから、今でいう妄想型に相当するものがあるはずで、上のように訳すべきでしょう。『狂気(フェルリュクトハイト)』という訳語は、322頁、334頁にもありますが、同様に偏執狂で良いでしょう。

 次です。

精神病理学の課題は進行麻痺その他の種々の脳病過程の時の異常精神現象に対しては、この脳病過程がみつかれば、全く同じもの以上に出ることはないという事実や…(320頁)

精神病理学の課題は進行麻痺その他の種々の脳病過程の時の異常精神現象に対しては、この脳病過程がみつかって以来、全く同じもの以上に出ずにとどまっているという事実や…
(代案)

 次です。

症状群(322頁)

症状複合(代案)

 群というと単に複数あるという意味ですが、ここは「コンプレックス」、関連した複合という意味です。このあとたくさん出てきます。

 次です。

五 症状群の単位のもとになるものにはさらに、全然異質のカテゴリーの症状にある同じ性質がある。こういうのはたとえば、患者が「させられる」と感ずるのはみな妄想症状群とし、神経学的に説明できず心理学的に了解できない異常な運動現象は緊張症状群、過度な「刺激性」と「弱さ」から出たものとみられる出来事は皆神経衰弱症状群とするごときものである。(325頁)

五 症状複合の単位のもとになるものにはさらに、その他の点では全然異質の症状カテゴリーに分類すべき同じ性質がある。こういうのはたとえば、患者が「させられる」と感ずるのはみなパラノイア複合とし、神経学的に説明できず心理学的に了解できない異常な運動現象は緊張病複合、過度な「刺激性」と「弱さ」から出たものとみられる出来事は皆神経衰弱性とするごときものである。(代案)

 思考させられることも、行動させられることも、知覚させられることも、みな同じく「させられ」現象と分類される、といった事情を指しているのでしょう。さらにここでは、ヤスパースがさせられ体験を持つ患者も「パラノイア」と呼んでいることにも注目すべきです。第二章一節では、有名なシュレーバー症例も、パラノイアの例として挙げられていました。

 次です。

その最も著しい型として妄想症状群と緊張症状群をのべる。(334頁)

その最も著しい型としてパラノイア症状複合緊張病症状複合をのべる。(代案)

 ここは『分裂性精神生活』についての項に含まれる箇所ですから、ヤスパースがやはりパラノイアを統合失調症の中に含めていたことがうかがわれます。

 次です。

しかし一点への中心化はこの真正妄想症状群の特徴ではなく、むしろ支配観念と妄想的観念の特徴である。(337頁)

しかし一点への中心化はこの真正のパラノイア症状複合の特徴ではなく、むしろ支配観念と妄想様観念の特徴である。(代案)

 次が最後です。

六 体験は単一であって、患者にとってただ一つの現実しかなく、それは精神病の現実である。逆に、起る体験は空想的で、患者は二つの世界に同時に生活しているが、それは現実の世界 -患者はそれを正しく理解し判断している- と精神病の世界である。(345頁)

六 ある場合には、体験は単一であって、患者にとってただ一つの現実しかなく、それは精神病の現実である。逆に、別の場合には、起る体験は空想的で、患者は二つの世界に同時に生活しているが、それは現実の世界 -患者はそれを正しく理解し判断している- と精神病の世界である。(345頁)

 この本は残りわずかになってきました。私の関心がまた別の本に向かわないうちに仕上げてしまいたいものです。

精神病理学原論 
カール ヤスパース (著), Karl Jaspers (原著), 西丸 四方 (翻訳)
みすず書房; 限定復刻版 (1971/01)

Allgemeine Psychopathologie Ein Leitfaden Fur Studierende, Arzte Und Psychologen (1913) Karl Jaspers (ペーパーバック - 2009/11)

 

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