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2014年10月

2014年10月27日 (月)

DSM‐5の翻訳について

 これは以前の版でも気になっていた点ですが、DSM-5の大うつ病性障害の診断基準には日本語版で次の一節があります(160頁)。

(7)ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある。単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪責感ではない)

 「単に自分をとがめること」ではない罪責感というのが非常に分かりにくいわけです。読みようによっては、患者が「(何の理由も挙げずに)単に自分をとがめる」というのは、極めて異常で重篤な状態にも思えます。原書に当たってみると次のようになっています(p161)。

7. Feelings of worthlessness or excessive or inappropriate guilt (which may be delusional) nearly every day (not merely self-reproach or guilt about being sick)

 この最後の「about being guilt」は、「self-reproach or guilt」の両者に掛かるのではないでしょうか。つまり邦訳は以下のようにすべきではないでしょうか。

(7)ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある。単に病気になったことについて自分をとがめるとか罪責感をもつことではない)(代案)

 さて、この箇所には、対応する補足説明が本文中に記載されています。

 抑うつエピソードに伴う無価値観または罪悪感には、自己の価値の否定的で非現実的な評価、または罪へのとらわれまたは過去の些細な失敗を繰り返し思い悩むことなどが含まれる(基準A7)。そのような人達はしばしば、関係のない、またはとるに足らない小さな日々の出来事を自分の欠陥の証拠であると誤解し、不運な出来事に対する過剰な責任を感じている。無価値感や罪悪感には妄想的な部分が認められることがある(例:世界の貧困に対して自分に責任があると確信している人)。抑うつの結果病気になったことや、職業上または個人的な責任が果たせないことで自分を責めることは非常に多いが、妄想的でなければこの基準を満たすものとはみなされない。(邦訳164頁)

 内容に入る前に、まずこの最後の一文の翻訳にも疑問があるので指摘しておきます。

 Blaming oneself for being sick and for failing to meet occupational or interpersonal responsibilities as a result of the depression is very common and, unless delusional, is not considered sufficient to meet this criterion.(p164)

 邦訳の「抑うつの結果病気になった」という箇所は意味が取りづらく感じます(抑うつの結果もう一つ別の病気になったとでもいうのでしょうか)。意味からいって、「as a result of the depression」は直前の「failing to meet occupational or interpersonal responsibilities」だけに掛かるのではないでしょうか。そうするとここは、

病気になったことや、抑うつの結果職業上または対人的な責任が果たせないことで自分を責めることは非常に多いが、妄想的でなければこの基準を満たすものとはみなされない。(代案)

となります。なお、「interpersonal」については、日本語版ははっきり誤訳と言ってよいと思います。ここでは「対人的」としておきました。

 ともかく、この解説の最後の一文は、冒頭に挙げた診断基準に対応する説明が書かれているわけですが、原文を読めば明らかに、「病気になったことbeing sick」と「抑うつの結果職業上または対人的な責任が果たせないことfailing to meet occupational or interpersonal responsibilities as a result of the depression」に対する自責を除く、とだけ書かれており、「単に自分をとがめること」についての記載などはありません。

 以上のように考えて、やはり私は、診断基準(7)で除外されているのは、「病気になったことについての自責や罪悪感」のみであって、「単に自分をとがめること」が除外されているわけではないだろうと考えています。

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル
2014/6/30
日本精神神経学会、 高橋 三郎

Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: Dsm-5
2013/5/22
American Psychiatric Association

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