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2020年6月11日 (木)

フランスの記事から、封鎖による急性錯乱の増加について

 コロナによるフランスの精神病院への影響について時々ニュース記事を探していますが、今回は、自宅に閉じこもった人びとのなかに急性精神病の発症が増えているのではないかという記事を紹介します。5月1日という少し古い日付の記事です。いまは、むしろ封鎖解除の影響を論じるべき段階かもしれません。

https://www.lepoint.fr/societe/je-suis-le-covid-des-psychiatres-face-aux-pathologies-du-confinement-01-05-2020-2373711_23.php

 拙訳を今回のブログ記事末に掲載しました。

 「圧力鍋効果」という言葉がまた出てきました。これまでの記事を読む限り、狭いところに閉じ込められるという意味かと思っていたのですが、今回は、「閉じ込めている間に底を熱する」という具体的な喩えとして使われていました。その間に圧が上がって爆発が準備されるということでしょうか。

 コロナ関係の記事では、decompenserという表現も、毎度のように出てきます。多くの辞書には「代償不全になる」といった無味乾燥な訳語が載っていますが、プチロワイヤル仏和では「(大きな精神的ストレスの後で)奇矯な振る舞いをする」という口語的な意味が載っていました。特に今回紹介する記事の文脈にはぴったりです。

 精神医学用語の「bouffée délirante」はふつう「急性錯乱」と訳され、統合失調症とは異なる一過性精神病を指します。この「délirant」という形容詞は、日本の精神医学用語でいえば「妄想の」「せん妄の」「錯乱の」といった幅広い概念に対応します。「妄想」という言葉は、一定期間持続する誤った信念を指しますが、「せん妄」や「錯乱」という言葉は、意識不明瞭になって個々の信念も持続しがたいうつろいやすい病像を指します。bouffée déliranteは病像・状態を指す言葉なので「錯乱」という定訳が付けられているという事情もあるのかもしれませんが、今回紹介する記事をみるかぎり、どの症例についても明瞭な妄想が紹介されているので、むしろ「急性妄想症」とでも訳す方が実情に即しているのではないかと思いました。ちなみに、このdélirantの名詞形délireは、ドゥルーズ・ガタリの「スキゾフレニー=統合失調症」と「パラノイア=妄想症」の比較論の訳でも「錯乱」とされていることが多く、そこは「妄想」と訳さないと意味が通じないと思うことがありましたが、今回の一般向け記事からも、やはりdélire/délirantは普通の語感では妄想を指すんだろうなあと改めて思いました。

 

 "Je suis le Covid" : des psychiatres face aux "pathologies du confinement"
「私はCovidだ」:「封鎖の病理」に直面する精神科医たち

 「私はCovidだ」:封鎖以来、セーヌ・サン=ドニの精神科医たちは、既往歴のなかった若者たちが、ケア従事者たちが予想だにしなかったも病像の「劇症急性錯乱」に罹患して病院にやってくるという経験をしている。
 「コロナウイルスの治療を見つけた」と訴える者たち、「すべて自分のせいだ」と思う者たち、「救世主妄想に入り込む」者たちがいる。そして、あからさまに「ウイルスだ」と主張する者たち。
 「精神医学では、それは『青天の霹靂』と呼ばれています:非常によく機能していて、突然に代償不全に[=おかしく]なった人々のことです。彼らの近親者は、もはや彼らが誰だかわからないと言います」と、マリー=クリスティーヌ・ボークザンは説明する。彼女は、感染症の影響を最も受けている県の一つ、イル・ド・フランス[地方]のセーヌ・サン=ドニ県の80%をカバーするヴィル・エヴラール精神病院の18の部局のひとつで責任者を務めている。
 3月末、病院はウイルスの蔓延を避けるために全面的に再編成した。ボークザン博士が運営するオーベルヴィリエ部局は、患者たちが汚染されていないことを確認するための期間として5〜7日間収容される「緩衝」ユニットとなった。この期間中、彼らは外出の権利なく病室にいる。
ケア従事者たちにとってこれは、かく創造された斬新な観察区域となり、それ特有の「驚き」をもたらした。
 パリの町の精神科医アントワーヌ・ズーバーは、チームに手を貸しに来て、当初は「非常に静かな期間」を過ごした。「封鎖は封じ込め効果を果たしました。しかし、その間、それは圧力鍋の底を熱しました」と、彼は語る。
 「治療を中断した傷つきやすい患者たちの入院や、すでにフォロー中の患者たちの代償不全の[=おかしくなる]波が予想されていました。驚きだったのは、緊急の状況で到着した若い患者たちに、多くの初回エピソードが突然に出現する様子がみられたことでした」と医師は説明する。

焼身
 これらの印象を確認するために、20年間在任しているマリー=クリスティーヌ・ボークザンは、表計算ソフトExcelを開き、現在のデータを2019年3月の対照週間のデータと比較した。
 昨年、入院の17%が精神医学的エピソードの初回症例に関連し、主に男性で、平均年齢は40歳であった。今年、オーベルヴィリエに入院した27%はかつて障害を呈したことがなかった。平均年齢は34歳にまで下がり、女性も男性と同程度に罹患している。
封鎖という理由で何週間も自宅に閉じ込められ、これらの患者は「大きな不安を」呈し、それが「その頂点で劇症急性錯乱として表れることがあります」。「こうした急性錯乱の根源には、抑うつと」、さらに薬物の摂取や突然の使用中止がありうる、とアントワーヌ・ズーバーは付け加える。
 これらのトラブルは、しばしば誇大妄想的であるが、時には「自分自身と周りの人々のための巨大な不安を反映した」迫害妄想の様相を呈する。かくしてケア提供者たちは、ある青年が彼の頭に契約があると確信し自ら部屋でバリケードにこもっていたために警察を呼ばねばならなくなった。
 精神科医たちも看護師たちも、こうした発作[クリーゼ]の劇症的で暴力的な性質を強調する。「ごく短期間に、私たちは焼身未遂、喉を掻き切ろうとした自殺未遂、周囲を取り巻く家族の前で窓から飛び降りる未遂に遭遇しました」と、ヴィル・エヴラールの保健当局者ザビエル・ファイは詳述する。
 精神医学の臨床像は「つねに現実を刻印されています」と、2015年のテロの際にすでにこの種の「急性錯乱」に向き合っていたボークザン博士は説明する。
 主に18~35歳の人びとに影響を及ぼすと思われるこの現象を科学的に解析するために、ヴィル・エヴラール病院は、ドミニク・ジャニュエル博士が率いる「封鎖の臨床評価」研究を開始した。
 「劇症急性錯乱の増加は、必ずしも驚くべきことではありません、精神医学では何でも起こりうるのです!しかし、なぜ若者のあいだで起こるのでしょう?」と医師は問いかける。良いニュースは「それがかなり迅速に解決するようだということです」、と彼女は言う。
 オーベルヴィリエでは、精神科医たちはすでに「第二の波の臨床」、封鎖と、来たるべき経済危機の臨床について考えている。いくつもの研究がこのパンデミックで不安やうつ病の増加を示しているなか、その影響を受けるすべての国のメンタルヘルス専門家たちによって、この懸念が共有されている。

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