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2021年3月

2021年3月10日 (水)

ヤスパース『原論』の再読(第一章)2

 ヤスパースの『原論』を再読して気づいた翻訳問題をこのブログに載せながら読了したのはもうだいぶ昔ですが、最近『了解』という概念が気になって少し開いたら、また問題を見つけたので忘れないうちにここに挙げておきます。

現象学的な要素をみると、病的な精神生活には、われわれにわかりにくいにしても結局都合のよい情況ならはっきりわかるようなものと、本来われわれにはわからない、負のものとしてそうではないとしか言いかえられないようなものとがある。このように、本来われわれが心理的にわかるということによっては手がとどかない要素を静的了解不能、あるいは感情移入不能という。(みすず書房117頁。下線は引用者)

下線部が少々わかりにくく思います。ここは、nur negativ, durch das, was sie nicht sind, umschreiben koennenです。独和辞典でumschreibenをひくと、「遠回しに言う」という感じの意味のようです。それと、訳文中ひらがなの「わかる」の原語はanschaulichですが、これは「鮮明にありありと見えるようにわかる」ということなので、大辞泉で見つけた「現然」(=明らかに見えるさま)という言葉を使ってみます。以前はこの語を独和辞典でひいて見つけた「観照」という訳語が良いかと思ったのですが、国語辞典でこの語をひくと、目に見えるようにという意味はないようなのです。

現象学的な要素をみると、病的な精神生活には、われわれに現然しがたいにしても結局都合のよい情況ならはっきり現然するようなものと、本来われわれには現然しない、負のものとして、それではないものによって、遠回しにしか描かれないようなものとがある。このように、本来われわれの心理的現然ということによっては手がとどかない要素を静的了解不能、あるいは感情移入不能という。(代案)

 ついでにもう一か所、以前の記事(ヤスパースの妄想定義ですが: フロイトの不思議のメモ帳 (cocolog-nifty.com) )でも扱ったところを挙げましょう。

・・・今度は誤られた判断、妄想に移ろう。妄想とはごく漠然と、誤った判断を皆そういうのであって、互いにはっきり区別がつくとは限らないがかなりの程度に次の三つの外面的な特徴を持つ。一 非常な信、何ものにも比べられない主観的な確信。二 経験上こうである筈だとか、こうだからこうなるという正しい論理に従わせることができない。三 内容がありえないこと。(みすず書房版64頁、下線は引用者)

 前回は、下線部の主語が「Man」だということに注目しました。つまり、ここでヤスパースが言っているのは、妄想について世間では普通こう言われている、世間が言う妄想にはだいたいこういう特徴がある、ということに過ぎず、ヤスパース本人の主張ではない、ということです。前回はこの発見で満足してしまい、主語以外のところに目がいきませんでした。今回読み直して気づいたのは、ヤスパースはこれら三つの特徴が相互に区別が難しいといっているのではなく、それら三つの特徴はどれも程度に幅があってあいまいで、どの程度を越えたら妄想レベルなのかという線引きははっきりしない、といっているのだということです。

・・・今度は誤られた判断、妄想観念に移ろう。妄想観念とは世の人がごく漠然と、誤った判断を皆そう名指すのであって、それらは、かなりの -下限を明確化できないが- 程度に、次の三つの外面的な特徴を持つ。一 非常な信、何ものにも比べられない主観的な確信。二 経験上こうである筈だとか、こうだからこうなるという正しい論理に従わせることができない。三 内容がありえないこと。(代案。下線は変更点)

 原書die folgende aeussere Merkmale in einem gewissen hohen -nicht scharf begrenzten- Masse habenという表現のダッシュ句の位置からして代案のようにしか取れないと思います。みすず訳の通りだとしたら、aeussereの前か後ろにダッシュ句が入るはずです。なお、「Man」については、邦訳書の別の箇所に「世の人」という訳語があったので、今回はそれを使いました。それと、前回に続き「Wahnideen妄想観念」という語は字義通り訳しました。ヤスパース自身は、もっと後ろで、妄想観念ではなく妄想体験を重視して論を展開していきます。

精神病理学原論 
カール ヤスパース (著), Karl Jaspers (原著), 西丸 四方 (翻訳)
みすず書房; 限定復刻版 (1971/01)

Allgemeine Psychopathologie Ein Leitfaden Fur Studierende, Arzte Und Psychologen (1913) Karl Jaspers (ペーパーバック - 2009/11)

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