« ラカン『フロイト的もの』(エクリ407~408頁) | トップページ | ラカン『フロイト的もの』(エクリ410頁) »

2021年12月11日 (土)

ラカン『フロイト的もの』(エクリ408~409頁)

 今回から新たな章に入ります。

 章のタイトル、「LA CHOSE PARLE D’ELLE-MEME」はこのまま辞書に載っている決まり文句で、直訳するなら「事柄が自らを語っている」ですが「事実はあまりにも明白だ」という意味です。ここの「CHOSE事柄」という語は、精神分析用語では「もの」と訳され、特にラカン派では深い意味をこめて多用される用語となっていますし、この論文全体のタイトルにも用いられています。一方で、ラカンはこの前後で「真理」の口を借りる形で語っており、本文中の「私」は、ラカンではなく「真理」を指します。こうした事情全体を鑑み、さらに章のタイトルを字義通りに取れば、ラカンが言う「もの」と「真理」は同義語だともいえそうに思いますが、はたしてそれで良いのか、本文で何が語られるかいよいよ楽しみになります。

 読み進めると、今回の冒頭に「有角動物bête aux cornes」という言葉が出て来ます。前回、真理を捉えそこなう人びとを「雄牛のよう」と言っていたのを踏まえていると思います。

 問題はそこから先で、今回の内容と仏文は今まで以上に難しく、とくに2段落めは、段落が長いこともあって、なかなか読み進められず、今回の更新は前回からだいぶ間が空いてしまいました。この2段落目はやたら代名詞が多いので、何を指すと考えられるか明記しながら進んでみます。なかでも副詞的代名詞「y」(赤字にしておきました)は、その前の何を指すのかよく分からないこともあって、後ろに出てくる内容を先どりして指していると思いました。それと、「fille娘」は、女性名詞を受けて「~の所産、産物」という意味があるようで、ここではそのように取ってみました。

 なお、もう一箇所赤字にした箇所は、論文集『エクリ』では「Il」となっていますが、おそらく「Ils」が正しいと思われます。では。

LA CHOSE PARLE D’ELLE-MEME .
事実はあまりにも明白だ(事柄が自らを語っている)

 Mais voici que la vérité dans la bouche de Freud prend ladite bête aux cornes : « Je suis donc pour vous l’énigme de celle qui se dérobe aussitôt qu’apparue, hommes qui tant vous entendez à me dissimuler sous les oripeaux de vos convenances. Je n’en admets pas moins que votre embarras soit sincère, car même quand vous vous faites mes hérauts, vous ne valez pas plus à porter mes couleurs que ces habits qui sont les vôtres et pareils à vous-mêmes, fantômes que vous êtes. Où vais-je donc passée en vous, où étais-je avant ce passage ? Peut-être un jour vous le dirai-je ? Mais pour que vous me trouviez où je suis, je vais vous apprendre à quel signe me reconnaître. Hommes, écoutez, je vous en donne le secret. Moi la vérité, je parle.
 しかしほら、フロイトが言うところの真理が、先ほどの有角動物を捕まえ[て次のように言い]ます:「私はゆえに皆にとって、現れるや否や逃れる女の謎なのだ、諸君の礼儀作法によって私を美辞麗句の下に隠すことに長けた人間たちよ。それでもやはり私は、皆の当惑が真摯であることを肯う。というのも、皆が私の先触れ役を務めるときにすら、皆は、私好みの色を身に着ける[=私の従僕となる]には値せず、むしろ、亡霊たる皆自身によく似た衣服を身に着けるほうがよいからだ。では、皆に伝わった私はどこへ行くのか、この伝わりの前に私はどこに居たのか。ひょっとするといつか私は皆にそれを語るだろうか。しかし皆が私を私が居るところに見いだすために、私は皆に、私をいかなる記号のもとに認識すべきか教えるであろう。人間たちよ、聞くが良い、私は皆にその秘密を与えよう。私は真理、私が話す。

voici que + ind. ほら~、もうすぐ~、ここに~
dans la bouche de... ~の言うところによれば、に言わせると、が言うと
s’entendre à... ~が上手である、得意である/に精通している
porter [les] couleurs 仕着せを着ている、従僕である/de~の色を帯びる、~の好みの色を着る

« Faut-il vous faire remarquer que vous ne le saviez pas encore ? Quelques-uns certes parmi vous, qui s’autorisaient d’être mes amants, sans doute en raison du principe qu’en ces sortes de vantardises on n’est jamais si bien servi que par soi-même, avaient posé de façon ambiguë et non sans que la maladresse n’apparût de l’amour-propre qui les y intéressait, que les erreurs de la philosophie, entendez les leurs, ne pouvaient subsister que de mes subsides. À force d’étreindre pourtant ces filles de leur pensée, ils finirent par les trouver aussi fades qu’elles étaient vaines, et se remirent à frayer avec les opinions vulgaires selon les mœurs des anciens sages qui savaient mettre ces dernières à leur rang, conteuses ou plaideuses, artificieuses, voire menteuses, mais aussi les chercher à leur place, au foyer et au forum, à la forge ou à la foire. Il(s) s’aperçurent alors qu’à n’être pas mes parasites, celles-ci semblaient me servir bien plus, qui sait même ? être ma milice, les agents secrets de ma puissance. Plusieurs cas observés au jeu de pigeon-vole, de mues soudaines d’erreurs en vérité, qui ne semblaient rien devoir qu’à l’effet de la persévérance, les mirent sur la voie de cette découverte. Le discours de l’erreur, son articulation en acte, pouvait témoigner de la vérité contre l’évidence elle-même. C’est alors que l’un d’eux tenta de faire passer au rang des objets dignes d’étude la ruse de la raison. Il était malheureusement professeur, et vous fûtes trop heureux de retourner contre ses propos les oreilles d’âne dont on vous coiffait à l’école et qui depuis font usage de cornets à ceux des vôtres dont la feuille est un peu dure. Restez-en donc à votre vague sens de l’histoire et laissez les habiles fonder sur la garantie de ma firme à venir le marché mondial du mensonge, le commerce de la guerre totale et la nouvelle loi de l’autocritique. Si la raison est si rusée que Hegel l’a dit, elle fera bien sans vous son ouvrage.

「皆はいまだそれ[=秘密]を知らない、と皆に指摘しなくてはならないだろうか。皆のうち確かに幾人かは、私の愛人で在ることを自ら拠り所にし、おそらくこうした類いの自慢話においては自身の奉仕を受けるのがいちばんだという原理的な理由から、両義的な仕方で、以下のように措定してしまっていた。哲学の誤謬たちは ―彼らの誤謬を聞こう― 私[=真理]の助成によってしか存続し得なかった、と。ここで彼らをそれ[=哲学の誤謬たち]に関わらせた自惚れの不手際が現われずには済まなかったのだ。それでも、彼らは自らの思想の娘/所産たる誤謬たちを大いに抱きしめ、彼らはそれらが空しく、同じくつまらないことをついには見出し、古代の賢人たちの風習に従って再び俗説と付き合い始めたのだった。この賢人たちは、この最後にきたもの[=娘たる誤謬]たちを、狡猾でさらには嘘つきな訴訟人であれ雄弁家であれ、それら[=俗説]の列に組み入れる術を知っていただけでなく、それ[=娘たる誤謬]たちをその持ち場placeに、溜り場foyerに、そして広場forumに、鍛冶場forgeに、あるいは市場foireに、探す術をも知っていた。そのとき彼らは気付いたのだった、これら[=誤謬たち]は、私の寄生者ではなく、私におおいに奉仕するように見えるし、そのうえ、我が民兵で在り、我が権力の秘密諜報員でも在るようにさえ見える、と。『鳩が飛ぶ』ゲームで観察される、誤謬から真理への突然の換羽のケースの多くは、固執の効果にしか何も負っていないようにみえたが、彼らにこの発見の手がかりを与えたのだった。誤謬のディスクール、その現実態での明確化[=筋道だてた発声]は、明証性そのものに反して真理を立証することができた。ちょうどそのとき、彼らの一人が、理性の狡知を、研究に値する題材の列へと移し入れようと試みたのだった。彼は不幸にも教授だった。そして皆は、ロバ耳のお仕置き帽を学校でかぶせられ、しかもそれ以後、そのロバ耳は皆の仲間の中で少々耳の遠い者たちの耳たぶ/集音器を利用しているのだが、皆はこのロバ耳を彼の発言に向けることにあまりにもうれしがったのだった。だったら皆の漠とした歴史感覚にとどまりなさい、そして策謀家たちが、やがて来る我が社の保証という基礎の上に、嘘の世界市場を、全面戦争の商取引を、自己批判の新法を、打ち立てるがままにさせておきなさい。もし理性が、ヘーゲルがそう語ったほどにも狡がしこければ、理性は皆が居なくてもその仕業をうまくやってのけるであろう。

on n’est jamais si bien servi que par soi-même 自分でするのがいちばん良い
À force de... 大いに~したので
se remettre à... 再び~し始める
frayer avec... ~と付き合う、親しくする
opinions vulgaires 俗説
à leur rang ~の中に、種類に/同列に
mettre sur la voie 手がかりを与える
en acte 現実態の
qui sait ありえないことではない/おそらく
agent secret スパイ、秘密諜報員、密偵
pigeon-vole 『鳩が飛んだ』『鳩ごっこ』(子供の遊び;親が飛ぶものを言った場合は手を上げるが、飛ばないものに手を上げた人には罰を与える)
heureux de... ~をうれしく思う、してうれしい
oreilles d’âne ロバの帽子、お仕置き帽[昔、成績の悪い生徒に罰としてかぶせられた長い耳付きの紙帽子で、無知のシンボル]
faire usage de... ~を用いる、行使する
dur de la feuille 耳が遠い
en rester à... ~の程度にとどまる、それ以上は進まない
à venir 来たるべき

 冒頭のタイトルだけでなく、二段落目にも長い成句が出てくるので、気がついた成句は試訳の後ろに列挙してみました。

 すらすら読めるとはとても言えない出来ですが、とりあえずこんなところで公開しておきましょう。

Ecrits
フランス語版
Jacques Lacan

 鳩は前にも出て来ましたし、corne(角)と言う語は、以前は尻っぺたと訳しましたが「corne au cul」として既に出ていたりと、同じ表現が繰り返し出て来ますけれど、その意図するところまではわかりません。

« ラカン『フロイト的もの』(エクリ407~408頁) | トップページ | ラカン『フロイト的もの』(エクリ410頁) »

ラカン」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« ラカン『フロイト的もの』(エクリ407~408頁) | トップページ | ラカン『フロイト的もの』(エクリ410頁) »

2022年5月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ