今日、精神科隔離室の患者さんを訪ねたとき改めて気づいたんですが、映画「クワイエットルームにようこそ」でクワイエットルームと呼ばれていた隔離室には、廊下との間を隔てるタイプの鉄格子がなかったですね。
隔離室と廊下の間に鉄格子を設置するか否かにはけっこう地域差があると聞いたことがあります。私の地域では設置されているのが普通ですが、みなさんの地域ではどうでしょうか。そんなの見たことないという地域の方がおられたら、教えてくれるとうれしいです。
隔離室と廊下の間の鉄格子は、見栄えが殺伐としてしまうにもかかわらず、ある重要な役割のために、今後も全廃されることはないと思われます。どんな役割のためか、ご存知でしょうか?。
患者が隔離室に閉じこめられることを嫌がってスタッフと一緒にドアから出ようとする場合を想像してください。患者が懸命にドアに駆け寄ってくる場合、患者の指を挟まずにドアを閉めることは至難の業です。患者を転ばせておいてスタッフが走って出たり、布団を被せるなどして抑え付けておいて素早く離れるなどの方法がとられますが、患者を手荒く扱わざるを得ませんし、敏捷な患者に対してはなかなか安全にドアを閉められません。そこで、ドアから離れたところに格子があれば、スタッフのうち一名が格子の外側に回って、格子越しに患者を抑えておいて、他のスタッフがドアから病室を出てドアを安全に閉めるという方法がとられます。これが格子を設置する最大のメリットです。ご存知でしたでしょうか?。
他にも、廊下の窓を大きく開けて換気ができることや、患者が屈強・粗暴であっても格子を隔てて安全に話すことができることなどのメリットがあります。
ただし、せっかく格子を設置しても設計にミスがあった話もよく聞きます。
廊下の幅が狭すぎると、隔離中の患者を訪ねるときに、患者の手が届かない距離を取ることができないので、殴られたり、服を掴まれ破られたり、といったことが起こります。
格子の幅が広すぎると、患者が出てしまいます。15センチぐらいあれば、摂食障害の患者なら出られてしまうようです。
それと、格子の下端は床ギリギリの低いところになくてはなりません。格子の下端が床から何十センチも離れていると、そこに紐状の布を掛けて首を吊ることができるからです。
ドアのすぐ隣に格子を設計したために、格子を隔てて患者を捕まえていても、患者が手足をドアの隙間に差し込むことができてドアを閉められない、という役立たずな造りの隔離室も見たことがあります。
追記:見栄え以外のデメリットとしては、同様の部屋が並んでいると、隣の部屋の患者が騒ぐ声が聞こえたり、排泄物などの臭いが流れてくることがあります。対策としては、廊下にドアを設置して各部屋を空間的に隔てれば良いのですが、そのような対策が取られている施設を私は一箇所しか知りません。
ある病院で聞いた話ですが、隔離中の摂食障害の患者が、15センチぐらいの幅の窓(スタッフはそこから大人の出入りが可能とは誰も思っていなかった)から人知れず脱走して自宅に帰り、用事を済ませてから、同じ窓を通ってもとの隔離室内に戻ってきて室内で過ごしていた、ということがあったらしいです。
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